ヴィテルボViterbo からボルセーナ湖方面へ向かう。平坦で退屈な道を20分ほど走っていると、前方の小高い丘の上に城壁が冠のようにちょこんとのっているのが見えてきた。やがてバスは緩やかな坂を上り、小さなバスターミナルに辿り着いた。そこは、城壁に囲まれたモンテフィアスコーネの旧市街の入口前だった。

開いた口から車を吐き出しているかのような入口を覗き込んだ先は、一本の暗く細い坂道に続いていた。
その先に明るく光の射す場所が見える。

「先ずは、あそこまで行ってみよう!」。

童話に出て来る、不思議な生き物の体内に進入するような面持ちで、暗くて狭い道を車に気を付けながら上って行く。沿道にはお店が並び、人通 りもあることから、細いながらもメインストリートのように思える。

 

短いメインストリートの先には、ちいさな広場のもかかわらず、鮮やかなサーモンピンクの建物や噴水、シンボリックな時計の塔などがギッシリと盛り込まれている上に、まだ片付けらずにいるクリスマス飾り、広場には大きすぎるクリスマスツリーなどが飾られ、まるで賑やかなデコレーションケーキの中にいるようだった。
宿泊はこの広場に面した小さな料理宿(ロカンダ)。荷物を預けるために中に入ろうとするが、ドアが開かない。どうしたのかと様子を伺っていると、広場寄りの、お勝手口らしき小さな扉から出入りする恰幅のいいおばさんが、こちらから入って、と手招きした。

今日泊まるので、荷物を預かって欲しいと伝えると、やっぱり"ここからどうぞ"と言う。

「え?お勝手口から?」

ちらかった、でもおいしい匂いのする厨房を通り抜け、ダイニングの先にホテルの受付はあった。4階のボルセーナ湖の見える、眺めのいい部屋に決め、スーツケースを4階まで運び上げた。階段で・・。こじんまりとした部屋は明るい内装で、ホッと一息つける温かな印象だった。
 

時計はもう1時を回っていた。昼食を食べに出掛けよう。外は少し霧が出てきていた。

ホテルから城壁の外に沿って延びた見晴らしのいい一本の道を上っていくと、3件のレストランがあった。その中で一番高い場所にある、見晴らしの良い店に入った。

ここはワイン"エスト!エスト!!エスト !!!"の発祥の地。野菜の煮込み"アクアコッタ"は、そのワインにも良く合う。なにより体に染み渡り、湖からの冷たい風に凍りついた体を解凍してくれた。

食事も終わり、お勘定をお願しようとしていると、近くのテーブルのイタリア人がなにやら騒いでいる。身長が高く恰幅のいい、なんともマフィアをイメージさせるおじさんが、低くよくとおる声で、誰々の息子が撃たれて亡くなった、などと物騒な話を、あっさりとした口調で話しているのが聞こえた。
関わりあいを避けるように席を立った時、つい目が合ってしまった。それからは、日本人か、日本の何処から来たのか、何しに来たのか、などと質問攻め。以外に気さくなただのおじさんだった。さっきのあれは何だったのか・・・。そして、なぜか夕方会うことを約束して別 れたのだった。


店を出る頃、霧が濃くなってきていた。しっとりとした空気の中で、地図を片手に、旧市街のいちばんの高台にある要塞を目指す。ここならボルセーナ湖が一番綺麗に見えるに違いない。
高台にある要塞は、ごつく大きな鉄の門が入り口だった。中には庭が広がっている。「もうすぐ締めるけど、入ってもいいよ。」と、係りの人に許可をもらい中に入ると、全体が広い見晴台になっていた。

けれど、濃い霧のせいで目先すらはっきりと見えない。「このまま、ボルセーナ湖がちゃんと見られないのかな。」と諦めかけた時、パーッと雲が散り、霧が晴れて、真っ青な空と、鏡のようなボルセーナ湖の水面 が太陽に照らされている景色が現れた。

気まぐれな天気は、時にドラマティックな演出をしてくれる。この劇的な変化は私達をかなり興奮させた。気が付けば、辺りはまたサーッと霧に覆われてしまっていた。
戻ろうと見晴台の後ろ向いたとき、巨人の頭のようにブルーのクーポラが迫って見える。一瞬にして小人になった気分。


霧の中を、要塞を後に町の方向にあてもなく歩いていても、さっき観たクーポラの正体が気にかかる。

中心の広場に出ると、要塞から見えた、クーポラの教会に行く道は以外に簡単に見つかった。それに広場からは思ったより近い所に教会は建っていた。
深い霧からいきなり現れた正面ファサードは、シンメトリーに配された窓と中央の扉の配置が、生き物の"顔"を連想させる。中は静かで、あっさりとした雰囲気。地下へと繋がる階段へと数人の人が降りている。私達も、狭い階段室を恐る恐る下に降りてみると、黒いマリア像に沢山のロウソクが備えられている地下室のよう。怪しげな空気に、ちょっと背筋がゾッとする。しかし、突き当たりの扉は庭に出られるようになっていて、地形を利用した作りになっているだけだった。
昼間逢ったおじさんとの約束の時間まであと一時間。メインストリートを探索しながら約束のバールへ向かうことにする。

バールには着いたが、30分経過しても彼は来ない。忘れちゃったかなと席を立ち、帰ろうとドアの前に立った時、そのおじさんが慌てて店へ入ってきて、「遅れてすまない。急に娘が訪ねて来てね。だからゆっくりはできないが、カンパイだけでも」と言って、慌てたようにスプマンテ(シャンパンのイタリア版)を注文し、 "カンパ〜イ!!"と機嫌よく飲み干して、あっという間に去っていった。本当にあっという間だった。
空っ腹だったので酔いの回りも早い。足取りも重くホテルへ戻り、とにかく眠るつもりだった。スーパーで食材を買ったこともあり、夕食を外で摂るつもりもなかったのだった。
しかし、ホテルに足を一歩踏み入れた途端、いとも簡単に気が変わってしまった。このホテルは料理宿。おいしい匂いがダイニングから立ち込め、お客さんが少しずつテーブルを埋めていく賑やかな様子がすぐに感じられた。部屋に荷物を置き、急いでダイニングへ戻る。なんともゲンキン。 ダインニングでは良く肥えたお母さんたちが、まるで家に帰ってきたように温かく私たちに接してくれた。 胃が重いのでお腹にやさしいものを、とのリクエストに答えてここでもアクアコッタを出してくれた。 いかにも食欲がない様子の私達も、メニューを見ているうちに、結局タリアテッレ(パスタの一種)を追加した上、あげくにドルチェまで食べてしまっていた。
翌朝は、旧市街の外にある教会を観に出掛けた。昨日は霧に覆われることの多かったこの町も、今日は快晴。空もスッキリと青い。教会へ向かうために坂道を下っていった。
 
正面ファサードの上部に、回廊のようなバルコニーがデザインされているのが特徴で、初めてみる教会のタイプだった。
教会内部は天井が低く、教会=天井が高いというイメージに反しているが、逆に安心感のある落ち着いた空間になっている。暗い室内に外の光が明るく射し込む風景が、厳かで神秘的だ。教会を出ると、さっきよりもずっと太陽が眩しく感じられた。空気も気持ちいい。


お腹も空いたことだし、昨日スーパーで買ったパンとチーズとハムをサンドウィッチにして食べよう。 教会脇の階段に腰掛けて、ピクニック気分でランチをとることにしよう。
 
モンテフィアスコーネの公式サイト:http://www.comune.montefiascone.vt.it/