バッサーノ・デル・グラッパBassano del Grappaに近いアーゾロAsolo を訪れた日は、あいにく天気が不安定な日だった。

中距離バスに乗りアーゾロで降りる。駐車場らしき敷地があるだけで、閑散としていて何もない。地元の人も見当たらない。他の観光客一組と共に不安になりながら、かろうじてバス停に送迎されて来た地元の人から、丘の上にある旧市街への行き方を教えてもらった。

乗り継いだバスは小さな山をアッという間に駈け登り、アーゾロの旧市街の入り口に着いた。幸い雲も切れ、晴れ間も出てきた。コルマリオンの門Porta del Colmarion をくぐり、尾根に沿って緩やかに曲がった中世の石畳を歩いていく。

観光客は皆、幅の狭いアーケード(ポルティコ)のある歩道を、押すな押すなと町の中心に向かって歩いている。店先のディスプレイや古い街並みは、ヴェネチアの貴族が好んで移り住んだといわれるだけあり、なんだか裕福な香りを感じさせる。遠くで音楽が奏でられているのも、そんな気持ちにさせているのかも知れない。

建物がフッと切れた場所は、小さなテラスのような広場。お城を見上げる為に作られているのだろうか?
 
音に導かれる様に進んでいった場所は、四方から道が集合する中心的広場だった。雨上がりの午後、広場の石畳は、水打ちされたように光っていた。フレスコ画に彩 られた、まるでステージのような建物の一郭では、賑やかな民族音楽が奏でられている。町の様子から、どうやら今日は、音楽祭が催されているらしい。坂道の途中にあるバールもぎっしりと人が座って、それこそ豊かな時間に酔いしれている。我々は、そんなゆとりを横目に、取りあえず観光をする。

小さなお城は、これといって見る物が無い代わり、城壁の見晴らしからは、可愛さがギュッと詰まったような街並みをみせてくれた。

この風景には見覚えがある!

ガイドブックで紹介されているアーゾロの町のショット写真そのもの。観光客が我先にカメラに収めようとする通 り、つまりはビューポイントだった。
 
しつこい様だが、見る物もあまりない城の庭を歩いていると、突然、アフリカ音楽風の音が大きな太鼓と共に始まった。あまりに突然だったので、いたずら?何?と、意味もわからず音の出何処を探すと、アースカラーのお揃いの民族衣装に身を包んだ4人組が、2階の回廊でノリノリで演奏しているではないか。なるほど、音楽フェスタは町の至る所で開かれているんだ。

そして我々の観光モードは、ここで終わりとなった。せっかくだから、暫く城の庭に面 したバールで、彼らの演奏に聞き入ろうではないか。体中に振動が伝わる、エネルギッシュな演奏は観衆の拍手を誘う。イタリアでカンツォーネならぬ 、アフリカ音楽・・ですか。まっ、いいか、、結構ちかい大陸だし・・。意味不明。
演奏が終わる頃、我々はすっかり、この小さな町を一周する元気をもらっていた。これも音楽の力か? アップダウンのある通りは、所々建物と建物の隙間から、花と緑の庭を覗かせる。美しい景色をごちそうにあっちへフラフラこっちへヨロヨロ進んでいくと、すばらしい庭の気配を感じるホテルを見つけた。

入り口のガラスドアを、怪しく覗いていると、中から“入ってこい”のジェスチャーをするイタリア紳士。
なんの遠慮もなく中に入り、光が射し込む庭を見やると、“ラブリー”としか言いようのない美しい草花に囲まれた“ガーデン”が飛び込んできた。「庭に出て見て下さい」と誘われ外に出ると、パーッと広がる丘陵地帯が目の前に広がった。
その風景に思わず歓声が飛び出す。こんな豊かな田園風景に囲まれた町だったのかと、その時初めて気が付いた。
 
古い館へ導く細く伸びた糸杉の道、連なるブドウ畑。このすばらしロケーションを手に入れている、このホテルの宿泊客の幸福なことよ。ホテルのマネージャーだというイタリア紳士は自慢げに、あっちの庭も見てくれと促す。以外に奥行きのある庭は、散策にもってこいの小道が続いていた。 お礼を忘れず、またホテルのパンフレットも忘れず頂き、プチホテルを後にする。

ぐるりと町を周り終わり、帰路へつく頃、雨が降り始めた。バスの乗り継ぎは、傘無しでは辛い。インフォメーションで聞いたタクシーを呼んでも、運転手は遠くヴェネチアにいるとのこと。帰るすべはタクシーしかない。
幸いバールで教えてもらったとおりに、町の中心人物らしい人(caffe Centraleのご主人)にタクシーを紹介してもらう。彼が携帯を切ると、直ぐにタクシーがやって来た。直ぐ来る、親切、タクシー料金も安いの三拍子ときた。アーゾロの困ったときの・・・頼み。
 
小雨が降る中、農道のような道を走る車の窓からは、だんだん遠くなっていく美しい館の町アーゾロの姿が、青々と実った田園風景と重なり、霧のように薄れていく。それはまるで、フィードバックのように名残惜しげでドラマチックだった。
アーゾロ市のホームページは、"http://www.asolo.it/index.html"